
【番外編】 ログインできない夜に 〜一緒に直す、ということ〜
ファイナルファンタジーXIV。
夜のエオルゼアは、どこか静かだった。
ねこは、いつもならインしている時間に、画面の前でため息をついていた。
パソコンが、また落ちた。
急に画面が真っ黒になり、ファンだけが虚しく回る。
「……もう、だめかも」
何度も再起動を繰り返して、ログイン画面にすらたどり着けなくなっていた。
パーツの寿命か、電源か、グラボか――原因はよく分からない。
誰かに相談すればいい。けれど、「パソコン壊れたからしばらくインできない」そんな言葉を伝えるのが、なぜか怖かった。
チャットログの向こうに、うさがいる。
「おかえり」と言ってくれる人がいる。
それが当たり前になっていた自分に、ふと気づいた。
思い切って、スマホのチャットアプリを開く。
ごめん、パソコン壊れたかも。ログインできない。
すぐには既読がつかなかった。
だけど、数分後。
え、大丈夫? どこが壊れたの?
どういう状態? 症状教えて。いま通話できる?
その反応の速さに、思わず苦笑する。
困ってることなんて、あまり話さなかったのに。
こういうときだけ、甘えたくなるのは、ずるいかな――。
通話に、うさの声が入ってきた。
「えっと、それ、電源入ったときのファンの音ってどんな感じ?」
「ブォーってすぐ全開になる。画面は真っ暗」
「ふむ……グラボか電源っぽいけど、メモリ接触不良もあるから、いったん抜き差ししてみようか」
ゲームの中ではいつも落ち着いて回復してくれるヒーラーが、リアルでも同じように、優しく丁寧に対応してくれていた。
側にいるわけじゃないのに、この人はいつも、必要な時に「ちゃんといる」。
ネジを外して、ケースを開けて、不器用な手でメモリを外し、掃除機でほこりを吸う。
やっとの思いで、再起動。
――画面が、ついた。
「……ログイン画面、出た」
「ほんと!? やった、ねこ!ナイス!よく頑張ったね~!」
思わず、ふっと笑ってしまう。
こんなに嬉しいのは、たぶん、ゲームのことだけじゃない。
「ありがと。ほんとに助かった」
「ううん、困ったときはお互いさまだから」
その言葉が、思った以上にあたたかく響いた。
パソコンが復活したことより、うさの存在が、ただ嬉しかった。
深夜、ふたりでログインしなおしたエオルゼアの空は、雲一つなかった。
ねこはふと、うさのキャラの横に立ち、無言のエモートを一つだけ送る。
「感謝を捧げる。。お辞儀」
すると、うさは照れくさそうに手を振り返した。
「これで、また一緒に遊べるね!」
その一文だけで、胸がじんと熱くなった。

