
【番外編】穴に落ちるピーチ姫 ~スーパーマリオ3Dワールドの夜~
「やばっ、ジャンプ届かないっ――ああああああああああ!!」
キャラクターのピーチ姫が、華麗に宙を舞い、なぜか真っすぐ崖に吸い込まれていった。
その声と同時に、VC(ボイスチャット)の向こう側で、ねこの笑い声が爆発する。
「なんでそこ落ちる!? 今の落ち方、才能しかない!」
「私だって落ちたくて落ちてないし! なんかふわふわしてるのよ、ピーチ!」
ピンクのドレスでふわっと滞空できるピーチ姫。
操作キャラに選んだのは私。
ふだんはヒーラーで、堅実で丁寧なプレイをしているつもりでも、なぜかマリオだと急にテンションが変わる。
「また落ちた!」「やばいって! これマリオじゃない、アスレチック地獄!」
「キノピオなら余裕だったのになぁ〜」
「むり! キノピオすばしっこすぎて逆にムリ!」
ねこはキノピオ担当。
ピーチ姫がふわふわ舞う隣で、全力疾走してコインをかき集め、敵を蹴散らしていく。
そのスピード感に、私は完全に置いてけぼり。
「ねこ、ちょっと待ってよ〜!!!」
「いやいや、ピーチが崖に吸い込まれるまでの時間、めっちゃあるから!」
それでも、ピーチ姫はまた落ちる。
私の悲鳴は、今日だけで何回目か分からない。
けれど、画面のこちら側――ねこはずっと笑っていた。
ひとつひとつの声にツボって、復活のたびに「また落ちたw」と笑って、
ステージを戻っては「迎えにきたよ姫」なんて冗談を言って。
そのやりとりは、ただのゲームじゃなくて、
ふたりだけの夜をつなぐ、ちいさな物語みたいだった。

