うの夜-うさのスマホはどこ?-~漢字説明選手権~-900x506.jpg)
「草かんむり+ムがいっぱい+心」の正体:スマホがない問題、発生
静まり返った深夜。
部屋に響くのは、小気味よいコントローラーの操作音と、スピーカー越しに聞こえるねこちゃんの鼻歌。
数年来の「繋ぎっぱなし通話」は、もはや二人の日常というより、生存確認に近い。
同じゲームをして、同じ空気を吸って、同じ時間を過ごしているみたいな。
そんな凪(なぎ)のような夜。
その静けさに、うさがぽつりと石を投げた。
「ね~ねこちゃん」
「ん?」
「……漢字が読めないんだけど」
ねこちゃんの手が止まる。
「どこ? どのへん?」
「えーと……読めないから、なんて言えばいいか分かんない」
「は??」
ここから、うさによる――
“抽象画のような漢字説明選手権” が始まった。
「なんかね、上が草かんむりで……」
「うん、よくあるね」
「で、その下に『ム』が……なんか、いっぱいあるの!」
「いっぱい? 二つとか?」
「ううん、なんか、わちゃわちゃって! ぎゅってしてて! で、一番下が『心』!」
数秒の沈黙。
「…………情報が前衛的すぎて、エスパーじゃないと無理ゲー」
通話越しにねこちゃんが吹き出す。
「ねこちゃんが、読めないものはうさも読めない・・・」
半べそ気味のうさ。
「分かった分かった。写真撮って送って」
「あ、そっか」
その瞬間。
ガサガサ。
ゴソゴソ。
ドンッ。
明らかに大捜索の音が響き始めた。
「……ねぇ、何してんの?」
「スマホがないんだけど! どこ置いたかな、もう!」
「は?」
「ないの! どこにもないの!」
そして。
ねこちゃんが、ゆっくり言った。
「……うさちゃん。今、スマホで通話してるんだけど?」
沈黙。
深夜の部屋が、しん……と凍る。
「………………あ」
「気づいた?」
「これ、スマホだった」
「そうだよ!!! 今それイヤホンごしに喋ってんだよ!!!」
爆笑。
ねこちゃん、ほぼ酸欠。
「うさちゃん今日どうしたのwww 限界突破してんじゃんwww」
「いや、なんか普通に部屋中探してた……」
「『普通』の定義を辞書で引いてきて?」
ようやくスマホを持ち直して、うさがひとこと。
「で? スマホで何するんだっけ?」
「………………」
「写真だよ!!! 写真を撮って送れっつってんの!!!」
「あーーーーー!!!!」
その隙に、ゲーム画面では自キャラがボコボコにされ、
―― GAME OVER。
「あーあ、全滅した」
「……漢字のせいだね、これ」
「うん、漢字のせいだ」
責任転嫁、完了。
数分後。
ようやく送った写真。
そこに写っていたのは。
『憂(うれ)う』
上は草かんむり。
真ん中はムがわちゃわちゃ。
下に心。
「うさちゃんさぁ」
「ん?」
「ほんと、放っておけないよね」
「え、なんで? ひどくない?」
少し笑って、ねこちゃんが言う。
「だってさ。一人で生きてたら、スマホ探して一生終わりそ。私がいないと駄目っぽい」
「……あ」
胸の奥が、きゅっとなる。
言葉が出てこない。
「ほら、また固まってる。どうしたの?」
「……ちょっと今、心がキュッてなった」
「それ、なんて言うんだっけ?」
うさは、さっき覚えたてで、使いたくて仕方ない言葉を口にする。
「……憂う?」
「使い方間違ってるわ!!」
また、夜が笑い声に溶けていく。
漢字は読めないし、スマホも探す。
ゲームもすぐ負けちゃう。
でも。
この「うさねこ時間」がある限り、うさの毎日は、きっと大丈夫。
たぶん、これからもずっと。
今日の教訓
Bluetoothで通話しているときは、「いまスマホで話してるんだっけ?」問題を「憂う」べし。

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