
【バイオハザード5編】 ゾンビより怖いのはボイチャの悲鳴 ~叫ぶ声と、救助の声と~
「ねこ、聞こえてる? あ、これボイチャ入ってるよね? ああ緊張してきたぁぁぁ」
「入ってる。ていうかその声がすでにホラーより怖い」
Switchを起動し、ふたりはオンライン協力プレイに入った。
タイトルは『バイオハザード5』。
選択キャラは、うさ=クリス・レッドフィールド、ねこ=シェバ・アローマ。
頼れる男としっかり者の女性、……のはずだった。
「ねこぉ、後ろ! 後ろおおおお!!」
「わかってるって、声デカい! マイク割れてる!」
「ごめんっ!! でもゾンビが! ゾンビがすごい速いの! このゲームのゾンビ、陸上部!?」
開始3分、うさの叫び声はVC(ボイスチャット)の音量を超えてスピーカーから響いていた。
「まず構えて!照準合わせて!落ち着いて!」
「おっけ!おっけ!……あ、あれ? 撃てない!? 撃てない!!なんで!?」
「リロードして。弾ゼロ」
「し、死ぬぅぅぅぅ!!!」
バタバタと逃げるクリス(うさ)。後ろからゾンビの雄叫び。
「はいはい、回復するからそこ止まって」
ねこ(シェバ)は落ち着いた声でうさを援護する。
そのプレイは的確で、弾も節約しつつ、必要なときには確実にヘッドショット。
「なんでそんな冷静なの? 心臓ないの? 冷蔵庫に入ってるの?」
「そろそろ叫び疲れてない?」
「うん、のど痛い…ていうか私もう5回死んでる…」
「まだチャプター1だから」
部屋を抜け、太陽の照りつけるアフリカの村へ。突如鳴り響くドリル音。
巨大な斧を振り回すマジニ(ゾンビ)が登場。
「き、来た……ボスっぽいの来た!! こっち来てるよ!? なんで私なの!?」
「クリスだからじゃない?」
「くそっ……屈強な肉体が仇にぃぃっっ!!」
逃げるうさ。叫びながら角を曲がり、行き止まりで絶望。
斧が振り下ろされる瞬間、「どいて!」というねこの声と同時に、
横からショットガンの一撃が決まり、巨体がひるむ。
「やったああああねこ神ぃぃぃ!!」
「だから落ち着いて動けば助けるってば」
「もう結婚しよう」
「落ち着け」
プレイ中、ふたりの声が常にマイクに乗っていた。
叫び、笑い、指示を飛ばしあいながら進めていく協力プレイ。
うさがアイテムを渡し忘れ、ねこがツッコミ、ねこが仕掛けを解く間、うさがひたすら叫ぶ。
時折、画面が止まる。
「あっ、ごめん、手汗でJoy-Con落とした」
「死因、汗」
「あ、また死んだ」
「通算7デス目だよ、クリス」
「でも……楽しいね、このゲーム」
ふたりは通話越しに笑い合った。
たとえゾンビに囲まれても、ボイスチャットの向こうに笑い声があれば怖くない。
うさの絶叫と、ねこのツッコミが響くバイオハザード5の夜は、終わりなき戦いと、無限の笑いで続いていった。



